ショート・ショート

もぐら島 2

土は壁の両側に積まれ、通路の真ん中はうっすらとしているだけで、歩くには問題がなかった。

無音の世界。

足音は土の中に消され、普段、音に慣れ親しんでいる者には、ただ恐怖を感じるだけであった。

どこまで続くのだろう・・・

先には小さい明かりが見えるが、それはもぐら島の入り口であろう。

足元の土に気を取られ、走ることは出来ない。

一歩一歩着実に進むだけである。

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もぐら島 1

鉄道路線から外れた埋立地に向かう地下通路がある。

一時期はこの埋立地に鉄道が走るということで、値上げ屋たちがこぞって、ここのアパートやマンションを建て始めた。

しかし、新しい路線は運河一つ隔てた反対側の島を通ることになり、計画は頓挫。

マンション建設は途中で終わり、すでに移り住んでいた人々も次々と引越しして行った。

未来を見ることなくして、この島は廃墟となるだけになってしまった。

時間はたっぷりある。

近くの駅から(とは言っても30分掛かる)、歩いて来た。

この島に渡るには片側2車線の車道1本と、住民用に作られた地下通路のみである。

この間に誰も会うことはなかった。

無論、車さえすれ違うことはなかった。

本当の馬鹿でなければ、こんな島に来ることはしないだろう。

運河の下を通る地下通路に続く階段を降りて行った。

自分だけの足音だけが通路を響いた。

しかし、階段を降りてしまうと、足音は消えた。

地下通路は、どこから舞い込んだか分からない土で一杯であった。

誰か名づけたか知らないが、この島(埋立地)をもぐら島と言うようになったが、その通りだと思った。

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ずーっと あめ

あさからふっているあめはやむことなく、

にわのところどころにみずたまりをつくった。

おかあさん、ずうっとあめふるのかな

そんなことある分けないでしょ

となりのへやからこえがした。

あたらしいかささして、あそびにいっていいかな

何、言っているの

そとにあそびにいけない、いらいらがつのる。

げんかんにはまあたらしいかさ。

このあいだ、じぶんがえらんでかってもらったピンクのはながらのかさ。

ようやくまちにまったあめがふっているのに、そとにいけないとはどういうこと・・・

げんかんとおにわがみえるへやをいったりきたり、

でも、がまんのげんかい!!

げたばこからながぐつをだした。

あれぇ、こんなながぐつだったかな

かさとぜんぜんにあわない

いままできにせずにはいていたながぐつは、たんちょうのあかいろ。

そうだ、いいことおもいついた

たしかてれびのうえに

あったあった、じゅうにしょくのまじっく

まずはくろのマジックではなをえがく

あっというまにあかいろのチューリップができた

あかいろのはっぱはおかしいな

つぎはみどりのマジックでぬりこむ

たしょうはみだしたけど、だいじょうぶ

もうかたほうのながぐつのもおなじえを

つぎはうさぎさん

あかいうさぎはおかしいな

しろのマジックがない

そうだ、ぴんくのうさぎにしよう

ぬりぬり、ぬりぬり

そうだ、りぼんをつけてあげよう

たしかおもちゃばこのなかに

あったあった

サンタさんにもらったプレゼントをくるんでいた

あかとくろのチェックがらのひも

うちにくるサンタさんはとてもおしゃれ

このひもをはんぶんにきってながぐつにまきつける

さいごはしばれないのでテープでくっつける

そうだ、きのうつくったおりがみのネコさんもはりつけよう

できたできた、わたしごのみのながぐつ

おかあさん、そとにあそびにいってもいい

雨が止んだから良いわよ

ほんとうだ、あめがやんで、おひさまにこにこだ

かさをさして、にわのみずたまりをばしゃばしゃと

ながぐつさんがわらっている

あしたもあめがふりますように

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キエフの大門 その1

得意先の課長が、体調を崩したと言われ、午後の商談が空いてしまった。

受付の女性は、伝言を言うと、速やかに鳴り出した電話を取った。

これ以上ここにいることはないし、この商談も既にサインを貰うだけなので、問題ない。

会社には直帰の連絡をしている。

外は梅日和、僕はそのままビルの外に出た。

そういえば、来る途中、小さな画廊があったなぁ。

気になる「門の絵」。横には塔があって3つの鐘・・・

ゆっくり、来た道を確認しながら、その画廊へと足を向けた。

「こんにちは」

ドアの鈴がなると、上品な初老の女性が声を掛けてきた。

他には誰もいない。

しどろもどろに、ドアを開けたまま、立ちすくんでいると、

「見るだけも結構ですよ。どうぞお入りになって下さい」

笑った口元に、可愛らしい笑窪をつけて、僕を招き入れてくれた。

「初めて見える方ですね。どのような御用事で」

「先ほど、通った際に気になる絵があったので・・・」

「そうなの、どの絵なのかしら」

辺りを見渡したが、それらしい絵はなかった。

「20分ほど前のことです。丸い門に、横に塔が立っていて、そうそう3つの鐘がありました」

彼女は首を傾げながら、自分の過去を思い出そうとした。

「可笑しいわね。絵は動かしていないし、ええと、何をやっていたかしら・・・」

一つ一つ動作を真似て、僕はとても申し訳なくなった。

「もういいですよ。本当に暇つぶしに寄って見ただけですので」

僕はドアを開けようとしたときに、

「あぁ、思い出した。これよこれよ」

と、画廊の奥に行って、一枚の絵を持って来た。

「キエフの大門」

彼女はその絵を僕に渡した。

しかし、それは絵ではなく、最近見ることがなくなったLPレコードだった。

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