「瞬く」・・・森賀まり
目の中に芒原あり森賀まり
この句は、亡き田中裕明さんが作った句であります。
彼女への愛情、彼女の安らぎ、また彼女がいたからこそ、俳句を続けられている感謝の
気持ちが、この一句に詰め込められている気がします。
しかし、この句が彼女からずっと離れることはない支えでもあり、重荷であるかも知れません。
そうした中にタイトルの「瞬く」という言葉があちらこちらにちらつきます。
すでにこの世にはいない伴侶、それでも生きていくしかない人生・・・
香水に守られてゐるかも知れず
盆の道見慣れしものを一つづつ
内容は五つに分かれます。
句集は裕明氏の没前後10年間です。
最初は、裕明氏の作風が色濃く出ております。
水着の子川原の石に耳を寄す
柔らかな子供の靴や萩の道
掛稲に近く決して怒らぬ人
美しくわからぬ言語水澄めり
また、我が子を育てる彼女の句も、読者の心を掴みます。
天神のつつじを吸うてゐる子かな
彼の死に留まることなく、だんだんと離れて行き、最後のVの五つ目は彼女らしい作風となっております。
どの句も日常から作られる句であり、心に染み渡ります。
裕明氏を慕うメンバーが集まり、彼のことを研鑽して毎年、「静かな場所」を発行しております。
また、賛同する多くの俳人たちが結社の枠を超えて、それを支え合っております。
彼女がいるからこそ、彼の句が今も読まれ、今後も失せることはないと思います。
もちろん、彼女の句も彼に寄り添いながら、後世に引き継ぎられることでしょう。
(お願い:「静かな場所」No.1を探しております。譲っても宜しい方、どこかで見かけになった方、ご連絡願います。)
<感銘句>
Ⅰ
をだまきの花へ降りゆく梯子かな
水着の子川原の石に耳を寄す
夏の雲歌はもう一度はじめから
道の先夜になりゆく落葉かな
柔らかな子供の靴や萩の道
掛稲に近く決して怒らぬ人
我を見ず茨の花を見て答ふ
袋蜘蛛ロシアの名前むつかしく
Ⅱ
ふらここや岸といふものあるように
香水に守られてゐるかも知れず
盆の道見慣れしものを一つづつ
天神のつつじを吸うてゐる子かな
美しくわからぬ言語水澄めり
Ⅲ
近づけば草刈る人のかくれけり
春日傘追ひつけさうで追ひつけず
本を読む冬帽のほか変はらぬ人
冬菫こちらの岸と見ゆる岸
Ⅳ
歯をあてし花見団子のひんやりと
風船に長き緒のある小春かな
初蝶のあやふき脚が見えてゐる
蛇苺ねむたくなれば立上がり
瞬きに月の光のさし入りぬ
やはらかき指先なればこほらむか
Ⅴ(子の句は割愛)
空暗くなるたび落花かと思ふ
かすかなる空耳なれどあたたかし
苔咲いて三つに畳む手紙かな
烏瓜骨のすがたのよき人と
静けさの長き食事や墓参あと
秋の灯となる大学も病院も
マスクしてひよこの如く震へをり
墓参みち落葉を拾ふひとのあり
冬服のどこまで深く手の入る
Ⅵ
いつせいに鉛筆の音雪の山
バスの顔みな横向きに合歓の花
わが胸にこだまのありぬ青簾
無花果をさつと包みむ新聞紙
黒革の手帖やはらか十二月
足組めば砂のこぼるる素足かな
風鈴や庭より入る母の家
ひぐらしや暗闇なれば手をつなぐ
いと小さく顔上げてゆく秋日かな
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コメント
もしかしたら、「静かな場所」NO1は倉庫の奥にあるかもしれません。(ただし書き込みと折り目があり、保存状態は悪いです)見つかったら、ご連絡いたします。
投稿: 海音 | 2010年7月15日 (木) 00時37分
海音さま
No.1お持ちですか????
不要でしたら、是非ともお譲り下さいませ。
保管状態、全然気にしません。
よろしくお願い致します。
投稿: 楚良 | 2010年7月18日 (日) 22時40分